WiMAXやPocket Wi-Fiでは「月に7GBまで」と「月の上限なし(使い放題)」が一般的です。
この仕組みを理解するためには通信で使う電波である「FDD-LTE」と「TDD-LTE」を少し理解する必要があります。
FDD-LTEとTDD-LTE
2つのLTE「FDD-LTEとTDD-LTE」
現在のスマホの通信方式「LTE(Long Term Evolution)」には「FDD-LTE」と「TDD-LTE」という2つの通信方式があります。
技術的な違いは「復調方式の違い」となりますが、そんなことはどうでも良いです。とにかく「FDD-LTE」と「TDD-LTE」という2種類があります。
音声通話が進化したFDD-LTE
「FDD-LTE」という電波は音声通話から進化してきた通信方式です。
現在の携帯電話・スマホでも音声通話は「FDD-LTE」で行われます。
世の中にまだ携帯電話がなかった時代、船で使える「海上電話」やお金持ちや会社の社長さんが自動車で使っていた「自動車電話」などが無線を使った電話としてありましたが、これらの通信方式がさらに進化して携帯電話・スマホの音声通話となりました。
こんな歴史をたどってきた通信方式が「FDD-LTE」です。
無線通信から進化してきたTDD-LTE
もう一つの電波「TDD-LTE」は無線通信から進化してきました。古くはモールス信号や現在でもアマチュア無線などの無線通信です。
「TDD-LTE」は「FDD-LTE」のように電話・音声通話が目的の電波ではなく、データを大量に効率よく送受信できることを目的に進化してきました。
音声通話に強い「FDD-LTE」とデータ通信に強い「TDD-LTE」
このような歴史から「FDD-LTE」は現在でも音声通話用通信方式として、携帯電話・スマホで使われる電波となりました。
一方でデータ処理の効率が良い「TDD-LTE」もスマホのデータ通信を中心として使われる電波となりました。
LTEの周波数帯
「FDD-LTE」も「TDD-LTE」も電波なので周波数が決まっており、日本国内では以下のようになっています。
復調方式 | BAND | 周波数帯 |
---|---|---|
FDD-LTE | BAND1~28 | 700MHz~2.1GHz |
TDD-LTE | BAND41~42 | 2.5GHz~3.5GHz |
「FDD-LTE」は大体700MHz~2.1GHzまでの周波数帯に割り当てられており、「TDD-LTE」は大体2.5GHz~3.5GHzの周波数帯に割り当てられています。
「FDD-LTE」は「TDD-LTE」よりも小さい周波数帯に割り当てられている点に注目してください。
つまり日本国内では「FDD-LTE」は低周波数帯、「TDD-LTE」は高周波数帯の電波ということになります。
低周波数帯の「FDD-LTE」は障害物に強い
低周波数帯の電波は高周波数帯の電波に比べると「障害物に強い」という特徴があります。
低周波数帯の電波はビルなどの障害物に当たっても緩やかにビルの周りに回り込み、さらにビルの裏側まで包み込むように電波が進んでいきます。
障害物があっても障害物を取り囲むように進んでいきます。このため、低周波数帯の電波は障害物に強いと言えます。
高周波数帯の電波は障害物に反射する
一方、高周波数帯の電波は障害物に当たると跳ね返りやすい特性があります。
高周波数帯の電波がビルなどの障害物に当たると跳ね返されてしまいます。
このため、高周波数帯の電波は障害物に弱いと言えます。
FDD-LTEは「音声通話」「低周波数帯」
では、ここから「FDD-LTE」と「TDD-LTE」の特徴をまとめていきます。
「FDD-LTE」は音声通話を中心に使われる電波であり、かつ低周波数帯で障害物に強い電波です。
「低周波数帯なので障害物に強い」という特性は「どこでも繋がりやすい・高速通信」の電波です。
一方で「音声通話」に使われている電波ということで、通信キャリアはFDD-LTEを(例えば)「データ大量通信でダウン」させるわけにはいきません。今やライフラインにもなっている携帯電話の音声通話が「大量のデータ通信でダウン」すると、通信キャリアは総務省から叱られてしまいます。
つまり、音声通話で使っている「FDD-LTE」はどこでも繋がりやすく高速な電波ではあるけれど、「大容量データ通信には使いにくい電波」言えます。
TDD-LTEは「データ通信に強い」「高周波数帯」
一方で「TDD-LTE」はFDD-LTEよりもデータ通信の効率が良く、大容量データ通信を効率よくさばくことができます。
FDD-LTEがデータ通信に対してはあまり効率が良くないのに対し、TDD-LTEは効率よく大容量データ通信を行うことができるので「TDD-LTEはデータ通信向けの電波」と言えます。
しかし、日本国内では高周波数帯に割り当てられているため、残念ながらFDD-LTEに比べると「障害物に弱い」という特徴があります。
ここまでのまとめ
ここまでの話しをまとめます。
FDD-LTE | 音声通話向け |
|
TDD-LTE | データ通信向け |
|
そして、この「FDD-LTE」も「TDD-LTE」も日本国内の大手キャリアでは以下のブランドで提供されています。
通信キャリア | FDD-LTE | TDD-LTE |
---|---|---|
ドコモ | Xi(クロッシ) | |
au | au 4G LTE | WiMAX2+ |
ソフトバンク | ソフトバンク4G LTE | ソフトバンク4G (AXGP) |
au(UQコミュニケーションズ)の通信サービス
WiMAX2+サービス
au(KDDI)系列のUQコミュニケーションズは「WiMAX(TDD-LTE)の電波割り当てを(総務省から)もらうために作られた会社」です。
WiMAX2+(旧WiMAX)はBAND41という高周波数帯に割り当てられたTDD-LTE方式の通信方式です。
UQコミュニケーションズ(au)では、このWiMAX2+を使って「WiMAX2+」という通信サービスを提供しています。
毎月のギガの上限のない(一応は)使い放題の「ギガ放題プラン」が特徴で人気のポケットWiFiサービスです。
WiMAX2+のメリット・デメリット
「使い放題」というけれど・・・
WiMAX2+の使い放題プラン「ギガ放題プラン」では月間のギガ上限がありません。毎月どれだけ通信しても速度制限がかかることはありません。
というのは建前で、実は「3日で10GBを超えると通信速度を1Mbpsへ制限する」という短期使い過ぎに対する速度制限を実施しています。
速度制限と言っても、実際は「制限時の速度は1Mbps」と動画を見るには十分な速度であることに加え、「制限する時間帯は夜間のみ」と、かなり緩い制限になっています。
さすがに「大容量データ通信に強いTDD-LTE」を使ったサービスといえ、まったくの制限なしで使い放題にはできないのでしょう。
場所によっては繋がりにくい・データ通信できない
また、WiMAX2+でよく言われるのが「繋がらない」「遅くなる」という点です。
これは「障害物に弱い高周波数帯の電波」の宿命です。「TDD-LTE」という通信方式が悪いのではなく、日本国内でTDD-LTEが割り当てられている高周波数帯の電波であることが原因です。
高周波数帯の電波は障害物に当たると反射されてしまいます。この結果、「障害物に弱い」「地下街・地下鉄などに弱い」というわけです。
WiMAX2+サービスでの「FDD-LTE」
このように、WiMAX2+の「TDD-LTE」単独でのサービスは「障害物に弱い」という弱点があります。
この弱点を補うために、WiMAX2+サービスでは「ハイスピードプラスエリア(HS+A)モード」という通信方式を提供しています。
これはWiMAX2+(TDD-LTE)に加えて「どこでも繋がりやすい・高速」な電波である低周波数帯の「FDD-LTE」も使えるようにしましょう、という通信方式です。
WiMAX2+サービスの標準の通信方式は高周波数帯のWiMAX2+(TDD-LTE)のみを使った「ハイスピードモード」通信です。
さらに「繋がりやすいスマホの電波」である低周波数帯のFDD-LTE「au 4G LTE」も一緒に使える通信モードが「ハイスピードプラスエリア(HS+A)モード」通信です。
FDD-LTE「au 4G LTE」を使えるようにすることで、ビルの陰・地下街・地下鉄などWiMAX2+が少し苦手とする場所でも繋がりやすくなります。
FDD-LTE「au 4G LTE」を使う場合のデメリット
繋がりやすいスマホの電波「au 4G LTE(FDD-LTE)」を使えると良いことばかりではありません。
この「ハイスピードプラスエリア(HS+A)モード」を使うためには「LTEオプション」という月額1,005円の有料オプションが必要です。
さらに、WiMAX2+の使い放題プラン「ギガ放題プラン」を契約していても、この「ハイスピードプラスエリア(HS+A)モード」による通信量が月間7ギガを超過すると、すべての通信が128Kbpsに制限されてしまう、という仕様になっています。
WiMAX2+では「au 4G LTE」を使った通信は月間7ギガ以上使ってしまうと「ギガ放題」ではなくなってしまう、というデメリットがあります。
Pocket Wi-Fiの通信サービス
Pocket Wi-Fiの2つの通信モード
標準モード
Pocket Wi-Fiの商品特性としては、標準的に「月間7GBまで」という規定があります。これが「標準モード」です。
Pocket Wi-FiではTDD-LTE以外にスマホで使われているFDD-LTEにも標準対応しており、電波状態の良い場合には余裕のあるTDD-LTEによる通信を行いますが、電波状態が悪い場合にはより安定した通信ができるFDD-LTEに切り替えて通信します。
FDD-LTEはスマホで使う周波数であることから、この「標準モード」では「使い放題」とはならず「月間7GBまで」となります。
アドバンスオプションモード
そしてこのPocket Wi-Fiに「アドバンスオプション」を付けることができます。
特別なキャンペーンを除けば、この「アドバンスオプション」は月額500円のオプションです。
この「アドバンスオプション」をつけて「アドバンスモードによる通信」に切り替えると「TDD-LTEのみの通信」となりFDD-LTEでの通信はできなくなります。
「TDD-LTEのみの通信」に切り替わるメリットとしては、比較的余裕のあるTDD-LTEのみで通信することで「使い放題」を実現することができるようになることです。
つまり、Pocket Wi-Fiの商品設計としては、標準ではFDD-LTE/TDD-LTEどちらも使えて月に7GBまで、ただしアドバンスモードオプションをつけるとTDD-LTEの電波しか使えなくなる代わりに使い放題となる、という商品設計です。
「LTEオプション」を付けることでFDD-LTEを利用できるようになるWiMAXとは逆の商品設計ですね。
ソフトバンク・エアーの通信サービス
Airターミナルの3つのバージョン
Airターミナルには3つのバージョンがあり、申込時にどのバージョンで使うのかを選ぶことができます。
Airターミナル3 | Airターミナル2 | Airターミナル | |
---|---|---|---|
サイズ(HxWxD) | 約 208x95x95mm | 約 261x220x64mm | |
重さ | 本体:約 550g アダプタ:約 150g | 本体:約 610g アダプタ:約 185g | |
通信方式 | 4G方式:AXGP(2.5GHz)、TDD-LTE (3.5GHz) 4G LTE方式: FDD-LTE (2.1GHz) | 4G方式:AXGP(2.5GHz) | 4G方式:AXGP(2.5GHz) |
通信速度※1 | 下り最大350Mbps | 下り最大261Mbps | 下り最大110Mbps |
Wi-Fi | IEEE 802.11a/b/g/n/ac 最大866Mbps | IEEE 802.11a/b/g/n 最大300Mbps | |
WiFiクライアント 最大接続数 | 64 | 32 |
3つのバージョンの違いは大きくは「対応している通信方式の違い」となります。
Airターミナル1/2
Airターミナル(1)とAirターミナル2は通信方式として「AXGP(2.5GHz)」に対応しています。
つまり、あまりエリアの広くないAXGP(BAND41)であれば高速で使い放題ができる端末です。
Airターミナル3
最新型のAirターミナル3ではそれまでの「AXGP(2.5GHz)」以外にTDD-LTE(3.5GHz)と4G LTE方式に対応しています。
TDD-LTE(3.5GHz)はAXGPと同じ「TDD-LTE方式」で「効率よく高速だけど障害物に弱い」というTDD-LTE方式で、新しく割り当てられて運用を開始した3.5GHz帯の電波に対応しています。
また、同時にスマホで利用されている「Softbank 4G LTE」にも対応しています。
今までの「AXGP(2.5GHz)」以外に3.5GHz帯のTDD-LTEに対応したことから、より広いエリアで使い放題の高速通信ができることが期待できる一方で、TDD-LTEの電波が十分に入らない場所でも「4G LTE」による通信が可能となります。
ただし、この「4G LTE(FDD-LTE)」はスマホで主に使われている周波数帯であることから、TDD-LTEほどの余裕はないはずであり、速度規制の対象となりやすいと想像できます。
そしてネクストモバイルの通信サービス
Softbank 4G/4G LTEが使える
ネクストモバイルはここまで説明してきたFDD-LTEによる「Softbank 4G LTE」とTDD-LTEによる「Softbank 4G」のどちらの通信も可能なサービスです。
効率よく高速な通信ができるTDD-LTEが十分に掴める電波環境下ではTDD-LTEを利用した通信を行い、障害物などの影響でTDD-LTEの電波が弱くなった時には障害物に強いFDD-LTEの電波を使って、どんな場所でも高速通信ができるサービスです。
ただし、ネクストモバイルが提供しているルーター「FS030W」や「HT100LN」ではこのすばらしいサービスを十分に生かし切れていません。
なぜなら、「FS030W」も「HT100LN」もTDD-LTEによる通信方式に対応しておらず、結果としてFDD-LTEによる通信に限られてしまうからです。
4G(AXGP/TDD-LTE)による高速通信
ネクストモバイルで提供している「ソフトバンクマルチUSIMカード(F)」が本来提供している通信サービスでは、端末が対応していればFDD-LTEの他に2.5GHzのTDD-LTE(AXGP)も3.5GHzのTDD-LTEも利用可能です。
最近ではSIMフリースマホでもこの2.5GHzや3.5GHzに対応したものが出てきています。
しかし、ネクストモバイルが提供しているルーターでこのTDD-LTEが利用できないのは、残念です。
4G LTE(FDD-LTE)によるきめ細かな通信エリア
結局、ネクストモバイルのサービスとしては「データ通信専用の格安SIM」と同じになります。
高速でどんな場所でもつながりやすいFDD-LTE(Softbank 4G LTE)を使って大容量のデータ通信専用の格安SIMということです。
技術的に言えば、効率が良く高速通信が可能なTDD-LTEが利用できる場所ではTDD-LTEを利用したいところですが、利用者目線ではFDD-LTEさえ繋がってしまえば高速通信は可能です。